せっかく集まったのに鍵が開かない

せっかく集まったのに鍵が開かない

“私が生まれ育ったのは田舎町、高校に進学するには故郷から離れ下宿生活をしなくてはならないため、中学の卒業式には男子生徒も泣いてしまいます。受験することなく入れる中学と違い、高校はレベルに応じたところしか入れないため進学先はバラバラ、日常生活を送るのが不便な田舎町を一度離れると戻って来ない者は珍しくなく、そのため卒業式は盛大に行われます。
卒業式は毎年行われるのですが、卒業する生徒にとっては初めてのこと、思い出に残る卒業式にしようと考え私の年にはタイムカプセルを埋めることにしました。タイムカプセルには各々の思いの品などが入れられ、埋めたタイムカプセルを掘り出すのは10年後。
タイムカプセルを埋めたことなどすぐに忘れてしまい、お祭等で帰省をしてもタイムカプセルの話題になることはありませんでした。
10年が経ち、かつての卒業式実行委員会がタイムカプセルを掘り出す話をすると、「あー、懐かしい」、「どうなっているのだろう?」、「懐かしいって、まだ10年しか経ってないでしょ」、意見は各々。
卒業式は感動的でしたが、卒業から10年が経つとテンションはイマイチ上がらない、それでも掘り出す日には保護者など大勢の方が参加、何処を掘れば良いのかは分かっているため、男子がスコップで掘るとガツッと鈍い音。
大人になってもタイムカプセルを掘り当てた時は、昔と変わらない笑顔、ようやくワクワクし始めたのですが、掘り出したタイムカプセルは雨水が入ったのか中からポタポタ水が溢れていました。
代表者がタイムカプセルを開ける鍵を観衆に見せると「早く開けろよ」、暫くすると代表者は「鍵が開かない」、それを聞いた観衆からは「えー嘘でしょ」、「せっかく集まったのに」。
田舎町のため鍵屋は1件もない、タイムカプセルを掘り出すのに集まったのは日曜日で近くの鍵屋は定休日、せっかく集まったというよりは、もしかしたら2度と集まることは出来ないかもしれないため、出張でも来てくれる鍵屋をネットで探しました。
観衆が1人、また1人いなくなり寂しい気持ちでいると、町では見掛けない車がグラウンドに入って来たため、帰りかけた観衆からは「ヨッ、待ってました!!」
鍵屋さんは気恥ずかしそうに作業に取り掛かると、ものの5分でタイムカプセルの鍵を開けてくれました。
観衆からは「おー、凄え!!」、タイムカプセルに入っていた思い出の品などを見て笑う者もいれば泣く者もおり感動的、一方、鍵屋さんに料金を支払った者は「みんな、割り勘だよ」とは言ったのですが、感動している者の耳に届くことはありませんでした。”

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